ブラキシズムに関しては、既に4回にわたり、あくまでも、顎口腔系へのダメージ(損傷)を極力避けるには……というコンセプト(概念。一貫した視点、考え方。)で話を進めてきましたが、そのなかで咬合治療の可能性に言及したいと思います。
 
  ブラキシズムは、現代人にとって深刻な問題になってきています。なぜなら、来院される患者さんの主訴(病苦についての主要な訴え。)のうち、おそらく三分の一を占めるであろうという現実があるからです。

 以前は、虫歯と歯周病が、歯科における二大疾患でした。そこにブラキシズムにともなう、主訴が加わった形です。主な症状としては、さまざまな歯の痛み、知覚過敏、歯周組織の違和感、筋肉の不快感、顎関節の諸症状、頭痛、首や肩の痛み等があげられます。

 ブラキシズム研究の変遷の中で、咬合の問題が主な原因とする学者もいました。しかし、今では精神的なストレス(緊張。不安。)が、おおきなウェイト(重要度。)を占めるという考え方が、その趨勢になっています。

 その過去において、咬合の不調和が引き金となって、起こるものと解釈されたにも拘わらず、咬合治療が必ずしも有効だとは言えず、根治療法としては疑問視されていた時代がありました。

 そもそも、当時はブラキシズムを病的なものとして捉えており、それをやめさせる立場を取っていました。しかし、現在ではヒトが生きていくうえで、ストレス解消のために有用な一面を持ち合わせた、無意識の行動であるという見解に変わってきています。

 ブラキシズムを病的なものとしては捉えず、やめさせるのではなく共存するのであれば、咬合治療はダメージ コントロール*として、臨床的価値ある一手段と言えるのではないかと思いますが、いかがですか?(大)

 *ダメージ コントロール(Damage control、英):損傷を被った際、その被害が広がらないように施される事後の処置。元々航空軍事用語であるが、艦船事故、格闘技などのスポーツ、自動車、医療分野などで使われる。