20年くらい前でしょうか?・・・ハイブリッド セラミクスなる修復材料が流行したことがあります。92%のセラミックの粉末を主成分とし、残りは合成樹脂で構成されていて、そこそこの色調整が可能な、新しい審美材料という触れ込みで持て囃されたものでした。

 人気の理由は、安価、製作が容易、金属が目に触れない等でした。しかしそこに落とし穴があったのです。時間の経過とともに比較的早期に(2~3年で)、変色、破折、摩耗、辺縁漏洩等が起きてしまったのです。

 さて本題ですが、ある患者さんが【左側顎関節部の激しい疼痛と異常感】【耳鳴り】【片頭痛】を訴え来院されました。口腔内を拝見すると、左上臼歯部にハイブリッド セラミクス製の4本ブリッジが装着されており、高度の摩耗が確認されました。咬合紙を噛ませてみると殆ど噛んだ跡が付かず抜けてしまう状態でした。これは噛み合せがほとんど無いことを意味しています。

 長年の使用ですっかり減ってしまい、臼歯本来の咬合力を垂直的に受け止める機能(バーティカル ストップ)が失われ、顎関節に病的な症状が出ているのではないかと診断しました。模型を咬合器上で診断ののち確定診断とし、プロビジョナル レストレーションを装着して経過を追い、症状が軽快したので最終修復物へと移行しました。

 この症例からは、歴史のない材料には慎重に対処すべきであること、適応し得るのは様々な条件をクリアした限られた場合だけであること、等の教訓が得られたという、謂ってみれば一材料の一顛末記でした。(大)