毎日の臨床の中で、いろいろな患者さんと触れ合っていると、治療をしながらも、さまざまなことが頭の中を巡っています。 私たちの仕事である治療を、おおきく二つに分けてみると……

 一つ目は、患者さんの体が治癒に導かれるようにする、なってしまった病気を治す治療の分野です。
 
 二つ目は、なおった病気の再発や、なる恐れがある病気を未然に防ぐ、いわば予防の分野です。
  
 どちらも原因を取り除き、環境を整えるという意味では、あまり変わりがありません。しかし、再発予防の場合はともかく、発病予防の場合は、よほどの信頼関係がないと、治療依頼にまで至りません。

 この日本においては、残念ながら歯科治療に対する患者さんの信頼性は低く、停滞し続けています。しかし発病予防は、早期発見、早期治療をさらに推し進めた、臨床姿勢と言えます。

 たとえば、我々がクラウン(冠。かぶせ物。)を入れると仮定します。過去に時間的にも、技術的にも不可能な時代がありましたが、現代では単に歯を入れるのではなく、さまざまな治療上のチェック ポイント(確認過程)を経て、病因とならないように、理想的な形態、機能を模索して作成し、装着するという処まできているのです。

 そこには当然、歯科技工士、歯科衛生士の意見も加味され、歯科医師を含めた三者がそれぞれの立場から、妥協のない理想のクラウンをもとめ、チームで作成にあたるのです。

  悪化が予測されるのに、見て見ぬ振りをすれば、放置され大がかりな処置に発展します。発病予防を考慮した姿勢は、治療の拡大を防ぐことになり、究極の目的である、自分の歯を一生涯使うことにつながっていきます。

 私たちが時に示唆する、治療の拡大防止を念頭に置いた発病予防は、ともすると自分たちの仕事を減らす努力になっているのではないでしょうか!?(大)