歯がさまざまな方向に傾斜している(倒れている)ことが、日常臨床で良く見受けられます。

 原因として、顎の成長の度合や、乳歯のスペース(場所)確保、先天性欠損などの問題で、乳歯から永久歯への交換が順調にいかないことにより、永久歯列完成前にある意味では先天的に傾斜している場合があります。一方、歯を抜いたあとや虫歯の大きな穴を放置することで、隣接する歯牙が、永久歯列完成後に後天的に傾斜してくる場合もあります。

 どちらの場合も、環境の悪化が避けられずに、傾斜側に歯垢の停滞をまねき、歯ブラシが届きにくくなって、虫歯になりやすく、また歯周組織は慢性的な炎症を惹き起こし、歯槽骨の吸収を招く結果になります。そしてそのままの環境で、予防をはかろうとしても困難を極めます。

 さらに力の問題において、傾斜している歯が噛み合うと、咬合力が歯軸方向だけに伝わらず、ベクトルの関係で側方力が発生し、歯に対してはより倒そうとする力が働き、歯周組織には甚大な損傷を与えます。

 そして咬合の話になりますが、早期接触*や咬頭干渉**を誘発することになります。

 このような歯の傾斜に対しては、整直(歯を直立させる)という、部分矯正が有効です。比較的簡単な装置で、短期間に、臨床上優れた治療効果を期待できます。

 しかしながら本来このような問題は、それを起こさないようにするため、先天的な場合は早い時期から、小児歯科医や矯正歯科医による咬合誘導***で、顎の成長に伴う乳歯から永久歯への交換が、スムーズ(円滑)に行われるようにするべきです。また後天的な場合は、歯のない所に歯を入れる、虫歯なら早期に発見し早期に治療する、ことによる回避が最善の道であることは自明の理です。(大)

 *早期接触:神経筋機構において、歯などの固有の感覚受容器からの情報がない状況で、顎(下顎骨)が自然に閉じたとき、その歯だけが干渉すること。顎口腔系に大きな問題を惹起せしめる。

 **咬頭干渉:顎(下顎骨)が開閉以外の、さまざまな方向に動いたときに、その歯だけが干渉すること。やはり顎口腔系に甚大な損傷を与える恐れがある。

 ***咬合誘導:永久歯列完成後の咬合に問題を残さぬ為、混合歯列期のうちから顎の成長を睨んで、乳歯から永久歯への交換が順調に進むように、適宜、抜歯や矯正治療をくわえること。