インレー(inlay)は、直訳では”中に横たえる”になりますが、元々の意味は別にあり*、歯科では主に合金の詰め物をさします。

 日本における歯科臨床では、あまりにもインレーが多用されている気がします。穴埋め的に安易に、歯の部分的な欠損が修復されている例を、あまた見掛けます。 本来、インレーの適応症はかなり少なく、限られたものであるはずなのです。

 なぜなら、歯の中に詰めるような形態を有する、内側性の修復物の場合、咬合力が加わるたびに歯の立場からすると、楔を打ち込まれるように外側へ拡げられる力を、受け続けることになるからです。

 つまり、インレーでその歯が受ける咬合力の、多くを負担することになるような設計は避けるべきで、咬頭(歯の噛む面の山の部分)の破折/ 金属のたわみによる、適合部の歯のクラック(ひび割れ)と破壊/ 金属自体の変形により適合部にできる、段差や隙間等の原因になる恐れがあります。

無題

 真に長期的健康維持が期待できるという意味で、インレーの適応症は、咬合面(歯の噛む面)・頬側・舌側の溝に限局し、健康な歯質で十分に囲まれている症例か、片方の辺縁隆線が健全で、咬合面の溝と隣接面(隣り合った歯に接する面)を結ぶL字形の症例くらいなものになります。

 よく見かけるインレーの悪い例は、その形態が両隣接面を歯の溝が結ぶコの字形の症例です。その理由は、歯を頬側と舌側に二分し、まるで薪を斧で割るような力が発生するからです。特に強いブラキシズム(歯ぎしり及びそれに類するもの。)を有する場合、常に歯が破壊される危険をはらむことになります。

 以上のような考え方のもとに、お口の中で劣化(変性、腐蝕)のない材質を選択することが、インレー修復の経過を、半永久的に良好ならしめるのです。(大)
 
 *inlay:1、<金・模様など>をはめ込む、ちりばめる。2、…に象眼する。3、<接ぎ穂>を台木にさし込む。