長く放置した虫歯の治療を希望し、来院されたある患者さん・・・ 麻酔し、虫歯を取っている途中で、神経が露出したため、鏡を持って状態を直接眼で確認していただいた後、『やむをえず、神経を取らなければいけません。』と説明をすると・・・納得していただけない。

 『なにがなんでも、神経を取りたくない!』と・・・ 

 もちろん、神経を取らずにすみ、問題が出ないのならそれが最善の道です。 しかしながら、神経(歯髄)が感染した場合、当面痛みや腫れの症状がなくても、根の先の歯槽骨が吸収し膿がたまったり、何年かしてから急性化して、結局は歯の寿命を縮めることにつながるのです。

 そのようなとき、患者さんの選択肢は、こちらの説明に納得して任せていただくか、どうしても納得できないのなら、セカンド オピニオン*を求めるのも一法であろうかと思います。

 しかし、ご自分のしてほしい治療を、われわれに強要することだけは避けていただきたいのです。 なぜならどう治療するかを、診査診断して治療方針を決めるのは、責任を取らねばならぬ、われわれ医療従事者であるからです。

 患者さんが、こちらの治療説明に納得し、任せられると思ったなら、治療することを決定し依頼する。 それに対し、医療従事者が責任をもって請け負うという、いわば一種の契約のプロセス(手順。過程。)をふむことが、あとあとのトラブル等で、お互いが不幸にならずにすむ道なのです。

 このような考え方は、インフォームド コンセント**といって、近代医療の基本理念の根幹をなしています(大)
 
 *セカンド オピニオン:(「第2の意見」の意)よりよい治療法を見出す為に、主治医以外の医者から聞く意見。

 **インフォームド コンセント:医学的処置や治療に先立って、それを承諾し選択するのに必要な情報を医師から受ける権利。医療における人権尊重上重要な概念として各国に普及。