欠損補綴にあたり、部分入れ歯で対処した場合に、さらに欠損が増え、義歯がどんどん大きくなっていき、最終的に総義歯になってしまうことがあります。

   欠損に対する補綴設計を、単に穴埋め的にしか考えなかったときに起きてしまう状況で、 部分入れ歯の維持装置であるクラスプ*を設定した歯牙(鉤歯と呼ぶ。)等が数年おきに抜歯になり、義歯を作り直していくうちに総義歯になってしまう場合です。

   いわば歯科医療の敗北と認めざるを得ない、そう言われて致し方のない出来事です。

 このような事態に陥らないようにする為、義歯を装着する際には、(実は義歯だけに限らないことですが)、口腔内を包括的**に捉える必要があり、仮に症状がなく、また患者さんの訴えがなかろうと、診査の結果、治療を要する根拠があれば基礎治療として、虫歯治療/ 歯周治療/ 保存不可能歯の抜歯等をするべきです。

 なぜなら基礎治療がなされていないと、義歯の装着により発生する残存歯への負担が、結果的にその歯の寿命を縮めることにつながるからです。

 具体例としては、歯の位置や咬み合わせ等の関係で殆ど機能していない歯があった場合、その中に慢性的な疾患が内在しても普段は不快症状がなく、見かけ上は健康のように経過することがあります。しかしそこに義歯装着による負担が加わると、一挙にさまざまな問題が表面化することになります。(大)

 *クラスプ(clasp):留め金。抱きしめる。《歯》歯に掛ける止め金。

 **包括的:全体を一つにまとめているさま。全体に及ぶさま。