思い起こせば、私が総義歯の勉強をしようと思い立ったのには理由がありました。父の早世後10年余り経ち、歯科医師として三代目である私が開業するにあたって、患者さんの要望に応えられないという事態・・・

 例えば『その治療は出来ません。』とか、『大学病院に行ってください。』等と言うような事態には決してしたくなかったのです。その為にはいくつかの課題を克服しなければなりませんでした。

 もちろん、大学で学び、国家試験にパスして、その学んだことを忠実に活かし、毎日の臨床を積み重ねていけば、経験とともに技術が習得される治療分野もあります。

 しかし、大学の限られたカリキュラム(教育課程)では習得しきれない、治療分野もあるのです。さまざまな意味でゆとりがあり、向学心に燃えた輩は大学の各専門分野でさらに研鑽をつむ道を選びます。

 欲張りな私は、3年間の勤務の後、開業しながら土日を利用して大学以外で研鑽をつみ、さまざまな課題を克服しようとしました。その課題とは、抜歯のマスター(修得すること。熟達すること。)/ 歯周病治療システム**の確立/ 咬合治療のマスター/ 総義歯のマスター/ 矯正治療のマスターです。

 これらの課題を、10年で克服しようという壮大な自分プロジェクト***を立ち上げました。

 そのなかで”総義歯”は当時、若いもんには難しく、経験、カン、コツが必要で、それがなければできないと言われていました。(大)

 *プロローグ(prologue):前置き。序言。前口上。

 **システム(system):複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体。組織。系統。仕組み。

 ***プロジェクト(project):企画。研究計画。開発事業。