日本において、その昔、歯科医師国家試験などなく、義歯を作る者が歯科医師のようなことをやっていた時代があったと聞いています。つまり歯科技工士と歯科医師の区別がなかったということなのでしょう。

 明治以前、歯が無い人たちの中でおそらく地位の高い一部の人たちだけが、既製の木製義歯を使っていたとされており、言ってみればそれが総義歯の走りになるのではないかと思われます。

 欧米においては、約150年程前から、歯科に関するどの分野より先駆けて、無歯顎についての研究が盛んに行われました。おそらくその時代の患者さんのニーズ(必要性。要求度。需要。)を反映してのことだと思います。

 その、歯科のどの分野よりも長きにわたり研究されてきた、無歯顎に関する数々の論文をひもとき活かすことが、経験、カン、コツのなさを補う総義歯治療システム*確立の為の第1歩になります。(具体的な論文の紹介は別の機会に譲ります。)

 そして、これらの論文のエッセンス(物事の本質。精髄。)をちりばめた治療用義歯を、最大限応用する治療手法が第2歩になるのです。

 ここでいう治療用義歯は、ティシュー コンディショナー(粘膜調整材)を交換して使い、最終的な義歯作成の前に必要な時間をかけて、得られたあらゆる情報を活かし、限りなく最終義歯に近づけるという考え方です。

 このコンセプト(概念)は、まさしく有歯顎の包括治療におけるプロビジョナル レストレイション**に通じるものがあると言えます。(大)

 *システム(system):複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体。組織。系統。仕組み。

 **プロビジョナル レストレイション(provisional restoration):直訳では、暫定的な修復物。単なる仮歯でなく、治療を成功に導く為に、あらゆる情報を収集し、活かして、最終的には材質以外、最終修復物と同等の形態、機能を有するように仕上げていく、レジン(合成樹脂)性修復物。