前回、総義歯製作にあたり歯を並べるには、もともと歯があった所に並べるというお話しをしました。それを推し量るためには、幾多の研究論文の中から教えを乞う必要があります。

 具体的な方法としては、スタディー モデル(研究用石膏模型)を作製・観察し、歯が無くても軟組織に残されたさまざまな解剖学的痕跡、特徴を捉え、それをよりどころに歯の位置を推測します。

 ある意味で硬組織から軟組織を想像する、法医学や考古学に似た地道な作業だと言えます。

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① 上顎中切歯の切縁の位置は切歯乳頭の8~10mm前方にある。
② 正中線と直行する切歯乳頭中央を通る線上にほぼ上顎犬歯尖頭がある。

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③ 下顎中切歯切縁は咬合平面上で口腔前庭溝と一致する。

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④ 下顎臼歯舌側面は、後臼歯三角舌側面と犬歯近心面を結んだ線より内側にこない。
⑤ 下顎臼歯舌側咬頭は、後臼歯三角頬側面と犬歯近心面を結んだ線より外側にこない。

 以上のような研究データ*を活用することによって、元々歯があった位置に、総義歯の人工歯を並べることができるのです。(大)

 *データ(data):立論・計算の基礎となる、既知のあるいは認容された事実・数値。資料。与件**。

 **与件:所与に同じ。一般に、研究などの出発点として異議なく受け取られる事実・原理。