いつのまにか総義歯の治療解説で、20回を数えることになりました。総義歯に関しすべてを網羅することは、簡単なことではないし、また私にその能力があるとも思えません。

   これ以上は来院のうえでの、説明にさせていただきたいと思っています。

   前述した通り、総義歯に関しては殆んどすべて、S市のA先生の教えで得た知識です。

   7年前、私共の勤務医Hもまた先生の講習を受け、久方振りに私も聴講しました。今の私が毎日の臨床で無意識に行っている患者さんへの説明の仕方が、知らず知らずのうちにA先生に教えていただいた、知識や例の取り上げ方を礎としていることを再認識しました。

   今回最後に取り上げるテーマは、犬歯の形状です。既存の人工歯では天然歯に近く、歯の裏側(口蓋側。舌側。)が義歯の安定に寄与できないわけで、敢えて小臼歯化し以前解説した『総義歯と椅子』の考え方にのっとり、上下の犬歯が“T字形”で咬むようにすべきなのです。

   このことは残念ながら、義歯を専門に扱っている歯科技工士でさえ、なかなか知る人が少ない知識のようで、上顎犬歯の裏側にレジンを盛り上げて対応します。

   そして実はこの考え方は、有歯顎の包括治療において、バーティカル ストップの役割を犬歯に求める際に、上顎犬歯の裏側を棚状にし、下顎犬歯の尖頭を当てる場合と同じコンセプト(概念)だと言えます。(大)