矯正治療は、歯並びをととのえ、見た目を良くするという点だけが注目されているようです。しかしその実、有意性の最たるものは別の点にあり、それが歯の長期的健康維持につながるということを、果して皆さんはご存知でしょうか?

 例えば、総義歯症例において、その研究用模型を精査、分析してみると、もともとの咬み合せが【アングル不正咬合分類、Ⅱ級1類】に相当することが多いことに気が付かされます。

 解説すると、下顎が上顎より後方に位置し、臼歯が咬み合っても上下の前歯が咬み合わず前後にずれた状態をあらわし、俗に言う『出っ歯』にあたります。

 この咬み合せでは、前歯が十分に機能せず臼歯に負担がかかり、問題が出てくることになります。臼歯が本来の機能を果たせなくなると、前後にずれた前歯に臼歯の代わりができる訳もなく、咬合崩壊へとつながり、時間の経過とともに歯の喪失、部分義歯から総義歯へと移行していくことになります。
 
 矯正治療を、多くの場合の患者の主訴である審美だけでなく咬合をも考慮して行うことは、同じ歯科医療の分野にも拘らず審美と咬合を別個の治療目的としてきた、従来の治療概念から脱却したより進んだ考え方であって、大きな治療効果を期待できるものではないかと考えています。

 なぜなら、咬合を考慮することで、一部の歯のみに負担がかかることが避けられます。すべての歯各々に無理なく本来の役割を担わすことができれば、機能と非機能を合せ持つことができ、究極の目的である歯の長期的健康維持に結びつく可能性を限りなく高いものにするからです。(大)