過去の臨床経験において、ちょっとした咬合調整(噛み合せ調整)をしただけで、劇的な症状の緩和、炎症(歯肉の赤みや腫れ)の消退、動揺の消失、疼痛の消失等が見られたことがあります。

 噛み合せの問題は事程左様に繊細さを要求される世界なので、咬合調整をする場合、まずスタディ モデルをとり、フェイスボウ トランスファ、セントリック リレイションを採得して半調節性以上の咬合器に付着、その上で綿密な検討をおこなった後、口腔内で実践することをルーティーン(お決まりの手順)にしています。

 症例1:24才、女性、他歯科医院で矯正治療終了後、上顎右側側切歯が高度に動揺、疼痛も伴う。咬合診査で、右側への前側方運動時に強い干渉がみとめられた為、調整することで一切の不快事項が解消した。

 症例2:60才、男性、上顎右側中切歯唇側辺縁歯肉の発赤、腫脹を主訴として来院。咬合診査の結果、前方運動時、当該歯のみ咬合接触することを確認。フレミタス**もあった為、調整した結果全ての症状が軽快した。

 症例3:67才、男性、上顎左側中切歯と側切歯間のフード インパクション(food impaction、食片圧入)。診査してみると、前方および左側方運動時の咬合接触に問題あり、調整し主訴が解決した。

 症例4:31才、男性、顔面右側鼻翼部の瀰漫性腫脹で来院。診査すると口腔内触診で右側側切歯根尖相当部歯肉に圧痛、さらに打診痛もあり。X線で失活歯であるが、根管充填は完了していることを確認する。咬合診査で前側方運動時に強い干渉が見られ、調整して収束した。

 これらは実際の症例のほんの一部でしかなく、 全てを挙げれば枚挙にいとまがないのが現実です。また、咬合調整が咬合性外傷治療の全てではないことは自明の理かと思います。(大)

*咬合性外傷:強い咬み合せの力によって歯および歯周組織、顎関節等に与えられる損傷を意味する。健康な組織に過大な咬合力が掛かって起こる一次性咬合性外傷と、組織に何らかの病変がある場合健康であれば耐えられる咬合力であっても結果的に負担荷重になってしまう二次性咬合性外傷がある。

**フレミタス(fremitus):振盪音。当該歯に指をあて上下顎の咬合時、滑走時に僅かな動きを触れること。咬合性外傷における早期接触、咬頭干渉等の咬合調整時、歯軋り等の診断時の指標としている。