*はじめに

 国家試験資格を持った歯科衛生士の主な仕事には、歯科医師が行う治療のアシストとしての、治療器具の消毒、滅菌を含む管理/実際の治療の準備/治療時の補助/治療後の片付け等がありますが、何より歯科衛生士の存在価値を高めている業務として、歯周治療における重要な役割について触れないわけにはいきません。

 歯科衛生士は歯周治療において、歯科医師の方針、指示、管理のもと、単独で患者さんの治療を任せられます。

 その治療行為を成功させるためには、基礎としての解剖学知識や歯周病にかかわる知識(成り立ちや治りのメカニズム)を持ち合わせていることは勿論ですが、その上に、主として研究論文から得られる新たな知見があれば常に知識を付け加えていく必要があります。

 そもそも歯科衛生士の存在意義がどこにあるかと問われれば、

 それは歯周病を治せるかどうかにかかっており、換言すれば、歯周病を治せなければ歯科衛生士とは言えないということになるかと思います。

 患者さんの歯周病を治し、笑顔で心の底から感謝された時、我々の仕事が本当の意味で認められたことになるわけで、そこで得られる仕事の達成感、満足感は何物にも代えがたいものだと思います。

 歯科診療という仕事をやり終えた時の喜びを是非衛生士の皆さんにも味わっていただきたいので、あえて強い言葉で申しました。






 
 1.歯周治療

 歯周治療には、直接的原因除去として行うブラッシング(プラークコントロール)、スケーリング(歯石除去)、ルートプレーニング(壊死セメント質の除去)と、間接的原因除去として行う不良修復物の除去、咬合性外傷因子の除去、保存不可能歯の抜歯、動揺歯の固定等があげられます。

 その中で歯科衛生士が主にかかわるのは直接的原因除去の部分で、ブラッシング、スケーリング、ルートプレーニングの三者を合わせ、デブライドゥメント(Debridement)という概念を持って治療にあたる姿勢が求められます。

 和訳すると、『感染壊死組織を除去し、創を清浄化する治療行為』という意味になります。

 今日はその中の特にスケーリングとルートプレーニングに焦点を定め、お話しさせていただきます。







 2.Scaling(スケーリング)
 
 スケーリングとは歯質表面の歯石を除去すること
        
 歯肉縁上スケーリングと歯肉縁下スケーリングがある
        
 器具とその取り扱いについては熟知しておく必要がある
        
 歯肉縁下スケーリングでは視認不可のため歯根の基本的な解剖学的形態の把握が必要
        
 歯周病好発部位:上顎切歯の斜切痕/根面溝(3か所)/根分岐部、は除去が困難

 熟練した歯科衛生士であっても4㎜以上のポケットでは歯石を取り残す可能性大

 一回のアポイントで歯石除去できる歯数はせいぜい二本までとも言われている

 歯石除去が困難な部位にはフラップ手術が適応となる








 3.3A Explorer(探針)

 修復物の適合確認

 歯石の探索

 触知する対象の表面性状の判断

 根分岐部病変の検査等

 




 
 4.Scalar(スケーラー)の種類
       
 1)超音波スケーラー、エアスケーラー

  効率的

  基本的に縁上

  強く圧接しない
       
 
 2)  手用スケーラー
        
  ①鎌型(Sickle)スケーラー

   縁上歯石用

   Curved type&Straight typeがある(共に両刃)

        
  ②鋭匙型(curette)スケーラー

   縁下歯石用

   Gracy type(片刃)& Universal type(両刃)がある
                                                               
   軟組織損傷が少ない
                  
   Gracyは両頭7本組セットで14種類の形と角度の異なる刃がある
                  
   #1/2、#3/4 前歯部用
   #5/6                  前小臼歯部用                    
   #7/8、#9/10 臼歯部頬舌口蓋側用  
   #11/12              臼歯部近心用
   #13/14      臼歯部遠心用  
       

  ※)近年、レーザーによるスケーリングも行われている

 





 5.Scalarの取り扱い(Handling)

 ペングリップ把持

 処置歯に近い所にレスト

 切れ味が悪くなると歯石を取り残す

 こまめに磨く(Sharpening)
        






 Gracy typeの操作法

  ①縁下歯石は必ず3Aで歯石を探り確認しながら除去する
                 
  ②1st シャンクのフェイスを歯面に沿わせてポケット底部に挿入
                 
  ③そのとき歯肉を傷つけないように挿入する

  ④刃部がポケット底に入ったら1st シャンクを歯軸と平行にし            
                  
  ⑤カッティングエッジを歯根面に対し70度の角度に当てる
                 
  ⑥歯石の下で回転するようにして歯面に当て掻き上げる
                 
  ⑦基本は上下に動かすが場所により水平もあり
                 
  ⑧通常縁下歯石は縁上に比べ硬いので、小さなストロークで力を入れる
                 
  ⑨大きく一度に取ろうとすると取り残しが起きやすい
                 
 





 6.Root planing(ルートプレーニング)

 スケーリングで歯石を除去した後、ルートプレーニングで壊死セメント質の除去を行う
          
 根面の滑沢化により再度歯石が付着しにくくなり
          
 歯肉と歯根面の付着が起こりやすくなる
                                 
  いわゆる長い上皮性付着 (Long junctional epitherium)をねらう
          
 セメント質の除去が過剰だと知覚過敏や齲蝕の原因になるので注意する
          
 適切なルートプレーニングでも知覚過敏が起こりうるので前もっての説明が必要
          
 ブラッシングが良ければ、知覚過敏は防げることが多い
          
 ルートプレーニング後の歯面研磨とフッ化物塗布は効果的(大)